　　　　　　～　海をみていた午後　～

　海辺の風景は多彩。青空を鏡に映したような紺碧の海の色、流れる雲の隙間で舞う鴎の群れ、沖行く貨物船、テトラポットに砕け散る波しぶき、堤防を縫うように行き交う漁船と釣り船。そして潮の満ち引きに合わせ、波間で戯れる釣り人たちの振り竿のシルエット。

　夏のデッサン画は数あれど、夢心地を誘う真夏の海がお気に入り。熱き砂浜、誘惑が飛び交う渚に、集う若者たち。海の家でちょっとひと休み。ビーチパラソルの傘下で、トロピカルジュースを飲み干す。ひと夏のスナップ写真に一ページを刻む。
テーブルに読みかけの小説。南風がそっとページをめくる、そんな夏のひとコマ。
　

　海岸線を久しぶりにドライブ。「アクセルを踏み込み、風を切って走る感覚が何より好き」、助手席の君が呟いた。流れるカーラジオはいつか二人で聞いた潮騒のＢＧＭ。ふと明媚な景色に、車を寄せてエンジンを切った。澄み渡る空、どこまでも蒼い海原。自然と会話が止まる。触れ合う指先に通り抜けるいちりんの風。夏の思い出は、切なくそして儚きもの。この記憶を心の奥に閉じ込めて、車を発進させる。地図はいらない。道しるべのない恋。行き先を知っているのは、真夏の太陽と海を知り尽くしている海鳥たち・・・。

　海辺の小高い丘に立つカフェから窓越しに望む心和むロケーション。小春日和の温かい陽射しにまどろみ、海を見ていた昼下がり。
　海岸線に沿って続く砂浜に群れをなして押し寄せる波。サーファーたちは、その波がしらに立ち、その波打ち際で海鳥たちが憩う。遥か水平線の彼方に消える飛行機雲に、異国の面影が滲む。外国航路の大型客船も沖合いを行く。

　桟橋渡る風に季節を感じ、誰もが海に片想い。海を眺め、流れる雲に溜息をひとつつく午後３時。

　黄昏時、夕日が映える砂浜には、黄金に染まる波が幾重にも辿り着く。誰もが帰路につくための帰り支度を始める頃、静けさを取り戻した海は、違う表情を覗かせる。
　行き場をなくした一艘の小船、忘れ去られた護謨草履、帰るあてなどない一羽の逸れ鳥・・・。
　足早に迫る夕闇に、もう二度と戻れない時間を悟る。
　
　闇夜を照らす月明かり。港には、ハーバーライト。シルエットに浮かぶは、あの頃の少年の光と影。
　「あの日に帰りたい・・・。」叶わぬ願いをそっと胸の奥に閉じ込める。
　「明日は何を想い生きている・・・。」まばゆい光をやさしさで受け止めたい。そんな夏の終わりの「心の風景」